インタビュー

アクセルスペースは、宇宙の「Apple」を目指す。

2017年8月1日

株式会社アクセルスペース

代表取締役 中村 友哉氏

1979年生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中に小型衛星の開発に携わる。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年に株式会社アクセルスペースを設立し、代表取締役に就任。

アクセルスペースは、どのような事業をやっているのですか。

重さ100kgくらいまでの超小型の人工衛星を低コスト・短期で開発しています。設計・製造から打ち上げ・運用までをワンストップに引き受けられるのが特徴です。さらには、衛星から得られたデータの解析・情報提供についても行っています。直近の打ち上げは2017年7月14日にありましたが、当社が開発し、軌道上で稼働中の人工衛星はそれを含めてすでに3機に達しています。

実際は、どのように使われているのですか。

現在は、大きく二つのアプローチがあります。

一つ目は、企業の専用衛星として使う方法です。これまでに世界最大の民間気象情報会社であるウェザーニューズ社の専用衛星を2機打ち上げました。
同社は、自社衛星から得た海氷分布などの情報をもとに、世界中の船会社向けに航路支援サービスを提供しています。そのほか、火山や台風などを観測することで、独自気象情報サービスの充実化を図っています。

二つ目は、アクセルスペース自らが50機の衛星を打ち上げ、毎日地球全体を観測し、画像やそこから得られるデータを様々な用途に合わせて提供するプラットフォームを作るという構想があります。この全地球観測網をAxelGlobe(アクセルグローブ)と名付けて、構築を進めています。これについては後ほど具体的にお伝えしたいと思います。

宇宙ビジネスというと壮大に聞こえますが、極めて現実的で実用的な事業ですね。

驚かれる方も多いのですが、実は、私はもともと宇宙少年でも宇宙ファンではありませんでした。宇宙との出会いは、大学の研究室を選ぶ際に出会った「学生手作り衛星」プロジェクトに対する、エンジニアの卵としての単純な興味でした。宇宙という、もはや手の届かない過酷な環境の場所で何年も動作し続ける、そんなモノを学生である自分が作れるんだという、ワクワク感ですね。

在学中の2003年に、教育用の小さなものではありますが、学生の手による世界初の人工衛星の打ち上げに成功しました。
そうして卒業までに3つの衛星プロジェクトに携わってきました。その経験から、超小型衛星は「もう少しで実用的なものにできる」という確信がありました。せっかく超小型衛星開発を経験したにもかかわらず宇宙業界に見切りをつけて全く別の業界への就職を決める学生も多い中、私は超小型衛星にこだわり、開発を続けられるチャンスを探していました。
その頃、たまたま研究室で大学発ベンチャー支援の助成金が得られたので、どこかの会社に就職はせずにそのチームで衛星開発を続け、起業することを目指したのです。

この技術を何とか社会の役に立つものにしたいという一心で踏み出したのがアクセルスペースの原点です。ですから単に衛星を宇宙に飛ばすだけではなく、「宇宙という場所をいかに社会の中で活かせるか」が当社のビジネスのベースなのです。

従来の宇宙開発は、国単位、政府主導で行われてきました。
宇宙は最先端技術の塊であり、国力や外交力とも直結するため、どの国も技術や人員を囲い込み、内向きの論理で動いてきたきらいがあります。今、宇宙ビジネスが急速に注目されつつありますが、レガシーな考え方との衝突があり、特に宇宙先進国である欧米ではITビジネスのように国境を超える拡大・展開がそれほど容易ではないのが現状です。一方、われわれにはそこまで強い制約があるわけではないので、海外の優秀な人材を積極的に採用したり、海外との協業を進めたりなど、オープンなスタンスでビジネスを世界展開していくチャンスがあると考えています。
特に、われわれの専門分野である超小型衛星は、いわゆる大型衛星よりも画像などのデータを圧倒的に手軽かつ低コストで提供できますから、グローバル展開を考えるうえでの優位性は大きいと考えます。

 

超小型衛星という領域に特化してきましたが、アクセルスペースのものづくりの特徴はどのような点にありますか。

大学での開発がベースでしたから、本当にゼロからの出発でした。これが、従来の常識に振り回されずに済むという点で、結果的に良かったのだと思います。よく、国主体で開発しているような大型衛星をどうやって小型化したのかと聞かれるのですが、実は逆です。大学時代に作った手の平に乗るような極小の衛星から始め、その後ビジネス用に性能を上げるためにサイズも大きくなり、現在の大きさになったという流れです。
今までに当社で打ち上げた衛星も、最初に打ち上げた「WNISAT-1」が10kgで、東大との共同研究で製作した「ほどよし1号機」が60kg、又、これから自社で打ち上げ予定のGRUS(グルース)は100kgです。ですから、小型化技術と言われると違和感がありますね。逆に、大きくなっているのです。

私たちは何もないところから、お金もケチりながらコツコツと技術を積み上げてきたという点で、大型衛星とは全く異なるカルチャーでやってきています。その結果、低コスト・短納期での衛星が実現できました。
大型衛星を作ってきたメーカーでも超小型の衛星を作ることは技術的には可能でしょうが、当社のような低コストでは無理でしょう。桁違いのコストになってしまうと思います。

その意味では、PayPalの共同設立者でテスラ・モーターズのCEOでもあるイーロン・マスク氏がスペースXというアメリカの宇宙ベンチャーでやっていることが、当社の考えに近いですね。
NASAでは失敗が許されないので、とにかくコンサバな旧来の設計に固執し、コストは高止まりします。しかしそれは民間のビジネスからしたらナンセンスなわけで、そこに商機を感じたイーロン・マスクは、スペースXで圧倒的な低コストを実現しているのです。
例えば、スペースXのロケット組立は普通の工場の中で行いますが、これまでの常識では、埃の付着を避けるために巨大クリーンルームの中で製造するのが一般的でした。これだけでもコストが大幅に下がります。このように、本質的に必要なものを踏まえて製造開発することで、商業打ち上げに価格破壊をもたらしています。

日本でも、基準の厳しいJAXAに部品を納入していることで宇宙品質をアピールする企業はありますが、その分、値段は地上同等品の百倍、納期も半年近くかかったりします。
私たちは、1年で衛星を作って打ち上げるといったスピード感を目指しているので、むしろ地上で使われている既成品に、宇宙向けの工夫を加えて使うほうがコストも納期も現実的なのです。
5年10年というスパンが当たり前だった宇宙開発の世界において、いかに地上のビジネスと同様のスピード観に近づけられるかは、本格的な宇宙ビジネスを進めるうえでは肝になりますね。

特定の顧客用の専用衛星ビジネスのほか、自社で50機の超小型衛星を打ち上げる「AxelGlobe(アクセルグローブ)構想」がありますね。

今後は、AxelGobe構想により注力をしていきます。これは、アクセルスペース自身が、重さ100kgの人工衛星GRUS(グルース)を50機、2022年までに打ち上げるという計画です。
50機の衛星が宇宙から地球を撮影し続けることで、世界中どの場所でも毎日画像データを提供できるインフラが整います。

自社の専用衛星を持ちたいという企業は確かにありますが、衛星の自己所有にはやはり相応のリスクが伴います。打ち上げ自体が何億円というプロジェクトですし、打ち上げの失敗もゼロではありませんから。
そのため専用衛星は、強い利用ニーズがあって、他の衛星では簡単に実現できないような場合に選択されます。
ウェザーニューズ社の北極海観測などはいい例ですね。北極海を専用で監視する衛星はそれまでなかったわけですので。こういう事情もあり、今後何百社、何千社と自社衛星を所有する企業が次々と現れるような状況は想定しにくいわけです。
それでも宇宙利用を広げるにはどうしたらいいか。顧客は衛星本体が欲しいわけではなく、衛星から得られるデータが欲しいわけですから、衛星本体を所有するリスクは当社が引き受ければいいのです。
われわれ自身が衛星データをベースとする情報プラットフォームを持ち、そこから得られる情報を顧客に提供するようにすれば、利用の敷居は大幅に下がります。また、もとは同じ画像データでも、解析の手法を変えることで、広範な顧客ニーズを開拓できると思っています。

私たちは、「宇宙におけるApple」のような存在になりたいと思っています。衛星というハードウェアとOSを提供するので、世界中のみなさんにアプリを作ってビジネスを広げていってください、というようなポジションを目指しています。

AxelGlobe構想は、まさにプラットフォームともいえますね。これが完成すると、どのような可能性が考えられるでしょうか。

1960年代から始まった宇宙開発は長いB to G(企業対政府)の期間を経て、ようやく今、B to Bへの転換点を迎えています。
そしてその先には、B to Cの時代も来ると考えています。その時に私たちがAxelGlobeをどう進化させられるのか、市場からのフィードバックを得ると更にはっきりと見えてくると思います。

衛星データの用途はさまざまな可能性が考えられるでしょう。
例えば、都心で駐車場用地を探す時に、これまでは人海戦術だったのが、衛星データならビル解体が始まった時点で発見が可能になります。また、森林産業において、台風後の倒木被害を確認するのに一週間は森に分け入って調査していたのが、空からなら一見して分かります。

このように、コストの圧縮や作業効率の向上が衛星データで叶うような事例が具体的に出揃ってくれば、よりイメージしやすく、新しいアイデアが次々と出てくるのではないでしょうか。アプリ市場がひとりでに広がっていくのと同じ原理ですね。

インターネットのような、世の中を根底から変えるインフラを押さえるイメージですね。宇宙というリソースを使うことのアドバンテージはどのように考えていますか。

ひとことでいうと、「俯瞰」できる点ですね。宇宙には国境がないので、世界中を自由に観ることができます。今の時代はビッグデータが重要と言われていて、地上でさまざまなデータが採られていますが、ローカルなミクロのデータ集積でしかありません。
物事を判断するにはミクロとマクロ、両方の視点が大切です。宇宙からのデータがそうした多面的な判断、解釈に役立つのではと期待しています。

私たちの創業は2008年ですが、AxelGlobe構想を考え、資金調達に向けて動き始めた2015年あたりが第二創業期とも言うべき転換点です。
専用衛星の開発で私たち自身の技術力を高めてきたのに加えて、クラウドやAIなど、AxelGlobeを支えるIT技術や周辺環境が整ってきたのが大きいですね。50機の衛星から得られるデータ量は、少なく見積もっても年間8ペタバイトになります。ペタという単位はあまり耳慣れないかもしれませんが、1ペタバイトは、百万ギガバイトに相当します。
その大容量のデータに対応するストレージが必要ですし、その中から必要な情報を自動で抽出・解析するにはディープラーニングなどのAIテクノロジーは必須でしょう。また、画像を解析・処理するGPUの性能も極めて重要です。宇宙を利用した次世代の情報インフラを構築するというビッグビジネスを立ち上げるには、最適なタイミングだったと思います。

ありがとうございました。

次は、「アクセルスペースの組織論、求める人物像について」お話を聞かせてください。