インタビュー

新興国には松下幸之助がたくさんいる

2018年6月6日

NPO法人クロスフィールズ

代表理事 小沼 大地氏

一橋大学社会学部卒・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊として中東シリアに赴任後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。2011年にクロスフィールズを創業。2011年に世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shaperに選出。2016年、ハーバード・ビジネス・レビュー未来をつくるU-40経営者20人に選出。著書に、『働く意義の見つけ方――仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)。

クロスフィールズはどういう事業を手掛けるNPOなのですか。

「留職(りゅうしょく)」というプログラムの提供が現在の主な事業です。留学ではなく派遣先の国に「留」まって「職」務にあたるので留職と名付けました。これまでに日本の大企業の社員約150人の方をアジア10ヵ国に派遣してきました。
単に研修というレベルではなく、派遣先の団体のメンバーの一員として数か月にわたり実際に現地で課題解決に貢献していただきます。例えばある大手食品会社の研究者であるAさんがインドネシアに2か月間派遣された事例があります。
Aさんのミッションは食品会社での経験を活かし「村の農産物を使って加工食品を開発し販売すること」でした。
この村は、農産物の生産に留まっていては村の経済は発展しないという課題を抱えていました。そのため、農産物を加工して付加価値を付けて販売することで、村の経済を活性化させたい、という想いがあったのです。

留職の特徴は、目標やゴール設定から自分自身で行い、その実現の方法論も自分で考え出さなければならないということです。これまでとはあまりに違う環境でAさんは留職後早々に体調を崩してしまったのですが、そのときに村人からもらった植物の葉が体調不良に効いたことに着目し、それを濾したお茶を開発。ペットボトルのラベリングや販路開拓まで、村の人たちもAさんも全くの未経験でしたが、もがきながら問題解決を続け、晴れて販売にまでこぎつけました。現在でもA氏が開発した商品はインドネシアの農村で販売されています。
このように、参加する日本企業の社員にとってリーダーとして成長する機会であると同時に、現地社会に確かなインパクトを生み出すのが留職プログラムの醍醐味です。

何を目指して「留職」を始めたのですか。

社会の未来と日本企業の未来とを同時に切り拓くリーダーを創りたいというのが、原点にある想いです。きっかけは、私が青年海外協力隊の派遣先であるシリアから帰国後に感じた、大学時代の仲間の変化です。学生時代はともに理想を熱く語った彼らが、大企業で働くうちに「大人」になってしまっていました。中東での経験や問題意識を語ったところ、そういう青臭さは日本企業ではタブーだと諭され、「お前も早く企業に入って、大人になれ」といわれたのです。
直感的に、おかしいと感じました。採用においては熱い思いを重んじられながら、入社後にはすっかりやる気を削がれています。大企業に入ったおかげで友人たちの目の輝きが奪われてしまったような気がしました。本来は崇高な理念のもとに集められたはずなのに、そうした目の輝きが奪われる環境なのだという点に大きな問題意識を感じました。それを変えていくこと、組織を構成する一人ひとりに目の輝きを取り戻してもらうことが、日本の社会全体にとって大事なのではと考えたのです。

まさに、解決すべき社会課題ですね。

日本人がどうやって幸せに生きていけるかの答えを見つけなければ、世界を変えられないでしょう。先進国だからこそ、生きることや働くことについての迷いや葛藤があります。むしろ、成長途上にある新興国のほうにこそ迷いのない元気を感じます。成熟しきった日本社会の先にある生き方、働き方に対して、新興国の持つ「幸福感」「高揚感」から学び直せることは大いにあると思うのです。

そう考えたヒントも、シリアでの経験にありました。青年海外協力隊では現地のNPOで働いたのですが、そのときの上司が、ドイツのローランド・ベルガーから出向で来ていた女性コンサルタントでした。当時の私の感覚では、清廉潔白な社会貢献の場になぜ、お金稼ぎの手先みたいな立場の人がいるのか不思議でした。でも実は社会課題を解決するのに、KPIを設定したりプロジェクトマネジメントをしたりという、コンサルタントの持つビジネススキルがたいへん有効だったのです。目に見えて環境が改善されていく様を見て、感動すら覚えました。
また、そのドイツ人コンサルタント自身にも変化がありました。最初は冷静で接しにくい感じでしたが、人口2000人の村の子供から、「あなたたちのおかげで今年から小学校に行ける」と感謝されたりすることで、自分の仕事が着実に誰かの将来につながっている手応えを感じ、彼女自身の働き方も熱を帯びていったのです。

目の輝きを失いかけているものの、本来大きな可能性を持っているであろう日本企業で働く人材に、このドイツ人コンサルタントのような経験を提供することで、なにかが変わるかもしれないと考えたのです。

留職プログラムによって、世の中を変えていけそうな手応えは感じていますか

留職プログラムに参加してから3年以上経った方たちの近況を追跡インタビューしたところ、皆さん社内での存在感が確実に上がっていました。たとえば、パナソニックからベトナムに派遣された方は、その経験を元に新規事業を立ち上げ、現在そのリーダーとして活躍中。ほかにも、社内の組織活性を取り仕切ったり、グローバルで活躍されたりと形はさまざまですが、現地で着火された炎を今も形にし続けてくれています。この事業をやって本当に良かったと思えます。

最近、留職プログラム卒業生がクロスフィールズのオフィスに集まる会も定期的に開いています。そこで悩みや相談をぶつけ合うことで、せっかく取り戻した目の輝きを持ち続けるお手伝いができているかもしれません。普通の研修会社はプログラムが終わればそれっきりでしょうが、われわれは人間同士の関係をこうして築けているのはありがたいこと。150人という数字はまだまだ少ないですが、狭くても深い実績であり、この方たちが周りに与えているインパクトも大きいと自負しています。

それから、新興国で出会うリーダーたちは本当に魅力的です。日本で言えば、明治維新か高度経済成長期前夜といった環境で、「この人が、おそらく昔の日本でいう松下幸之助のような存在になっていくのだろうな」と感じるような人と仕事することもすごく多いです。こうした素晴らしいリーダーの方々と一緒に仕事をできるのは貴重な機会ですし、彼ら・彼女たちに貢献できるということには、なんとも言えない高揚感があります。また、その過程で私たち自身のリーダーとしてのあり方が進化していることにも大きな手ごたえを感じています。