インタビュー

GoogleやFacebookが宇宙に進出する今、われわれは何をすべきなのか。

2016年8月22日

株式会社フロムスクラッチ

代表取締役 安部 泰洋氏

1983年福岡県生まれ。新卒でベンチャー企業に入社後、半年で新規事業責任者に抜擢され事業の黒字化に成功。社長賞、全社MVP賞を受賞。2008年に株式会社リンクアンドモチベーション入社。部門立上げ、大手企業から中小中堅ベンチャー企業の組織人事、採用コンサルティング事業に従事。2010年、株式会社フロムスクラッチ設立。

「フロムスクラッチはどういう会社なのか」と聞かれたときに、安部さんは今どのように説明されているのですか。

現時点における事業でいうと、「マーケティングのプラットフォーム会社」というのが最もシンプルな定義かと思います。

企業がマーケティングを行う際には、「集客」、「販促」、「売上・顧客管理」という3つのステップが必ず生まれます。ところが今のマーケティングは、3つのステップごとに、ツールもベンダーもすべて別々になってしまっています。そのため、本来であれば活かせるはずのデータが活かせないという問題を多くの企業が抱えているという現状があります。

例えばリスティング広告とDSPとFacebook広告を実施したとして、どれが最も出稿単価が安いか、どこからの流入数が多いか、と問われたら、マーケターや経営者はみんな答えられます。ところが、どの広告経由で獲得したユーザーが最終的に最も売上高が高いか、トータルの費用対効果が最も高いのはどれか、と問われると、答えられる人がぐっと減ってしまいます。データが別々に管理されており、プロセスが連続して繋がっていないからです。どの施策が最も収益にインパクトがあるのかわからない中で、企業はマーケティングに予算を投下しています。“広告偏重型”や“CPA至上主義”と揶揄される中で、底が抜けたバケツに水を注ぎ込むようなマーケティングからどの企業も脱することができていません。

特に日本は技術で経済成長した国です。誤解を恐れずに言えば「良いものを出せば売れる」といった神話を信じているマーケティング後進国なのです。そのため、いまだに「マーケティング=広告」という認識が大勢です。対してアメリカは、マーケティングの定義が日本のそれと比較して広く、商品開発も技術開発もマーケティングの一部ととらえています。マーケティング領域が多岐に渡ることで、バラバラの部署を統合させる必要があります。ゆえに、有力企業の95%CMOというポジションが存在するのです。一方で、日本は5パーセントくらいにしかCMOがいません。

そのような背景を受けて、私たちは、B→Dashというサービスの開発をしました。

B→Dashによって、企業が保有するあらゆるデータをワンプラットフォームで全て「一気通貫」して統合させ、何にどのくらい投資したらどのくらいの収益が得られるのかがリアルタイムにわかるようになりました。加えて、マーケターの手間も格段に減りました。これまではデータの入口から出口まで繋げようとすると、それぞれのツールからデータを吐き出したうえで繋ぎ合わせ、ローカルで分析するといったように、膨大な作業が生まれていましたが、それを全部オートメーション化できるというのがこのプラットフォームの強みです。作業員と化していたマーケターが煩雑な業務から解放され、本来の業務に注力できるようになったのです。

マーケティングプラットフォームの先に見据えているものは何でしょうか。

先ほど現時点においてはマーケティングプラットフォームの会社であるとお伝えしましたが、我々の本丸はデータテクノロジーの会社であり、目指すべきは世界の「ビジネスプラットフォーム」への進化です。それを実現するべく「世界中の企業のビジネスデータを収集・統合する」、「人工知能を掛け合わせる」という二つの戦略テーマを掲げています。

B→Dashが企業に導入されると、企業活動の入口にある「マーケティングデータ」と、出口にある「売上データ」がすべてB→Dashに入ってきます。導入社数が1万社、10万社、100万社と増えることで、あらゆる企業のビジネスデータが収集・統合されていきます。

これは非常に重要な意味を持ちます。なぜなら、データこそがこれからの未来を切り拓くからです。

企業価値である時価総額も、単に「純利益×PER」といった公式では計れなくなっています。純利益の代わりに、データを持っている会社が高く評価される傾向が強まってきています。Instagramがまさにそうです。

2012年にFacebookがInstagramを買収しましたが、当時、Instagramの売上はゼロです。一方、買収額は約810億円です。純利益をベースにした計算では、とても説明がつかない金額です。当時の株主たちは、「経済合理性が合わない。会社の私物化だ」といって、ザッカーバーグを大いに非難しました。それでも買収したのは、当時、すでにInstagramのユーザーが約3,000万人いたからです。

InstagramとFacebookはビジネスの相性がいい。連携させることで、莫大にユーザーが増え、facebookが喉から手が出るほど欲しかった「画像データ」が取得できると考えたからでしょう。その結果、Instagramの会員は2015年時点で4億人まで増えています。ユーザー数3億人のTwitterの時価総額が2兆円を超えていますから、3年後に2兆円以上の価値となる会社を、当時ザッカーバーグは810億円で手に入れることができたと見るべきです。「未来においてデータの価値というのがいかに重要になるか」を示した事例です。B→Dashがビジネスプラットフォームになるという大きな絵を描けるのは、データという金脈にリーチ出来ているからです。

世界の大きな潮流はデータに向かっている、と。

そうです。コンピュータの歴史に基づいてお話ししますと、もともと軍事産業用だったコンピュータを、IBMがビジネス用に使い始めました。それを個人でも使えるようにしたのがアップル。さらにインターネットが広がり、スマホというデバイスやクラウドコンピューティングという世界が生まれてきました。このような進化の中であらゆることがデータ化され、企業はこぞってクラウドコンピューティングを導入し始め、ビッグデータを蓄積しはじめています。

これは、GoogleAmazonFacebookが宇宙産業やドローンに注力していることも無関係ではありません。世界のビックプレーヤーは明らかにデータを取りに来ています。

中国の奥地などを含めると既に世界人口は80億人を突破しているのではないかと言われている中で、インターネットユーザーは2015年段階でまだ30億人しかいません。その他の50億人はインターネットにつながっていないわけです。Google、Amazon、Facebookからすると、ユーザーあたり売上高を増やすアプローチに加え、インターネットユーザーそのものを増やすことも、彼らのアップサイドを決めるわけです。

といっても、インターネットがつながらないのは国のインフラの問題です。そこで、彼らは宇宙の人工衛星からWi-Fiを飛ばし、どこでも誰でもインターネットが使えるようにすることを考えています。これから10年以内に、Wi-Fiなどの通信料は確実に無料化するでしょう。なぜなら、彼らがそれを無料提供しても、インターネットユーザーが増え、データがどんどん集まってくることでそれを売上につなげることができるからです。そう考えると、彼らは今、データを取りにいくために、懸命に宇宙産業やドローン産業の発展を推し進めているということです。宇宙は現時点で唯一未開の地、すなわち領土や領空の考え方がまだ定まっていないので、人工衛星を飛ばしたもの勝ちの状態ですから。

データというものの価値は既に間違いなくこの10年で、とてつもなく高まっています。極論すれば、データさえあれば何でもできるという話です。日本のスタートアップの経営者がGoogleやFacebookを超える、という話をよくしますが、それは非現実的だと思います。やはりこれだけ宇宙産業などに参入されてデータを持たれてしまえばもう勝ち筋はかなり薄くなっていきます。

厳しい話ですね。。この中でフロムスクラッチはどのような絵を描きますか。

もちろん単に負けを認めるつもりはありません。彼らが「B2Cにおけるデータの覇者」なのであれば、私たちは「B2Bにおけるデータの覇者」を目指します。SalesforceもAdobeもOracleも、マーケティングテクノロジー分野の企業をどんどん買収しており、これらのソリューションを統合することで、企業のビジネスデータを取りにいこうとしています。

その中で、B→Dashは唯一、ワンプロダクトでEnterpriseといわれる大企業から、SMB(Small and Medium Business)まで、広くデータを取ることができます。B→Dashは特に、「ユーザーのカスタマージャーニーデータ」を入手できることに大きな優位性を持っています。例えば、マーケティングでいうと、どこの経路から入ってきて、どのような回遊をして、どういうラストクリックコンバージョンで、コンバージョン後にどういうメールに反応して、誰が営業に行って、何回訪問して受注が決まって、さらにそこから誰のどういう動きによってアップセル、クロスセルに成功したのかという、生々しいビジネスデータが全部、B→Dashに入ってきます。このデータは点ではなく線的データであり、動的データです。ここに非常に大きな価値があるのです。

「集まったデータをどう活かすか」が課題ですね。

まさにその通りです。例えば、10年分のデータを入力したとしても、活用方法が分からなければ意味がありません。この問題がいたるところで起こっているため、「データアナリスト」という職種の求人がここ数年で、爆発的に伸びたわけです。しかし、日本にデータアナリストは多くは存在しません。人材の需要と供給があまりにアンバランスであり、結局、「ビッグデータに出口なし」と言われていた、ということです。

ところが、決定的なのは、ここにきて人工知能の研究が新たな段階に進んできたことです。

人工知能自体も古くから研究されていました。人間が教え込めばこむほど、勝手に頭がよくなるという機械学習や、人間を介さず特徴量を自動で学習することを前提とした深層学習など、人工知能の研究自体は進んでいました。しかし結局、「データがなければ人工知能など使いようがない」と言われ、あまり日の目を見なかったのです。しかし、現在はデータがあります。そしてデータは出口を求めています。「データがなければ反応しなかった人工知能」と、「蓄積されているが使い方が分からないビッグデータ」というものがようやく重なり合いました。それが今の時代なのです。

ビッグデータと人工知能は具体的にどのように重なり合っていくのでしょうか。

私たちはデータがたまってきたら、マーケターやコンサルタント、統計学者やリサーチャーといった「人」が何かをするのではなく、人工知能が何かをする世界を実現したいと考えています。例えば、サイトにユーザーが流入した瞬間に、「時間軸データ」としての企業の過去データと、「空間軸データ」として競合・類似企業がサンプリングされたデータが瞬時に解析され、「このユーザーを収益化していくためには何をすればいいのか」を、人工知能が教えてくれるといったことです。そうするとマーケター、コンサルタント、リサーチャーが要らなくなります。そのような世界の実現を目指し、私たちはこの領域に先張りをしています。

これは社会的意義が非常にあることだと思っています。現状はまだ人口とGDPの相関関係は密接ですから、人口がどんどん減っていく日本のGDPもまた、下がっていきます。

世界のモデルケースとして日本がこの問題にどう対処するかというと、やはり「生産性の向上」だと思っています。今まで5人でやっていた仕事を1人でできるかどうかは、「データと人工知能の活用」にかかっています。

そう考えたときに、私たちがB2B領域におけるビッグデータの覇者になり、そこに人工知能を活用することによって、マーケターがいない中小企業でもマーケティングが実現できるという世界を実現することは可能だと考えています。データを取れば取るほど貢献範囲が広がり、収益が向上していくというモデルを敷いています。

世界で勝負するために必要な、データと人工知能以外の切り口はありますでしょうか。

「UI/UX」だと考えています。つまり「使いやすさ」というものに対してエクセレントな会社が勝つ時代が絶対に来ると思います。

マッキンゼーが買収した企業のうち、2社に注目しています。1社はLUNARというUI/UXコンサルティング企業です。もう1社がQuantumBlackというイギリスのビッグデータ解析を行う企業です。1社の買収事例だけで結論を急ぐわけではありませんが、世の中において今後ますますデータとUI/UXが重要になっていくかを表すエビデンスの1つだと認識しています。

コンサルティングというビジネスは多分に情報の非対称性で成り立っています。「あなたたちはきっと知らないが、私たちには多くのケースがあり、適切な示唆を抽出することができる優れた人材が豊富にいる」といったように。ところが属人的な優位性は、データと人工知能の活用によってなくなっていく可能性があります。そこでQuantumBlackを買収したわけです。もう一つが、人工知能が実用化されても、科学できないのではないかといわれる「UI/UX」です。これは人間の感情とリンクするからです。これらの会社を買収したということは、データドリブンの世界と同時に、UI/UXドリブンの世界が来ると考えているからではないでしょうか。市場におけるUI/UXのバリューがとてつもなく上がっていく時代がもはや来ています。

日本企業はUI/UXで勝てるでしょうか。

これこそが日本の勝ち筋だと思います。トヨタが勝った理由の一つが「付加価値の定義」だと考えます。アメリカの自動車メーカーは自動車を「乗り物」と定義しました。だからこそ、10キロ先まで何分で行けるかといった、スピードを競ったのです。一方で日本は、自動車を「空間」と定義し、どういう空間で移動時間を過ごしてもらうかが大切だと考えました。長い時間運転していたら腰が痛くなるからリクライニングがあったほうがいいだろう、冷暖房が付いていたほうが親切ではないか、音楽が聞けたほうがいいだろう、といったように。これはまさにUXです。ここに対するこだわりが、日本人は大層強いのです。

このことを一番説明しやすいのが、言語学です。日本語は世界で一番粒度が細かい言葉だといわれています。日本語で「自分」を表現する言葉を挙げてみますと、「わたし、わたくし、僕、俺、自分」など、たくさんあります。一方、英語では「I(アイ)」しかありません。この言葉の粒度によって、アウトプットにも違いが生まれます。それを一番分かりやすく表しているのが「食」です。日本食は、言葉の粒度が細かいからこそ、調理方法から味の粒度までも細かくなり、結果として繊細で味が美味しいという評価が生まれます。日本語の次に粒度の細かい言語はフランス語だといわれますが、これには納得です。もう一度言いますが、イギリスやアメリカでは、自分を表現する単語は「I」しかありません。だから彼らの国の食事は...(笑)。僕からすると、これはもうUXの世界の話です。

UI/UXドリブンな世界では、日本の強みを最大限に生かせます。Salesforceやoracle、IBMやAdobeといった企業のB2Bプロダクトは使いにくいのです。彼らのUXに対するこだわりと日本人のそれとではDNAレベルにおける違いが存在します。

一方で新たな産業を創出させるといったイシューに関しては、同じくDNAレベルでアメリカには勝てないと私は思っています。移民として自ら国を切り拓いてきた狩猟民族としてのアメリカと、海という隔たりの中で外敵から長い間守られ、独自の文化を発達させてきた農耕民族である日本とでは、フロンティアスピリッツの濃度が違います。でもそれはそれでいいのではないでしょうか。しっかりと自己認知し、その上で戦い方を考えた方が合理的なのではないかと。なので我々はUI/UXの研究チームを社内に早々に創設して、強みを磨いています。

安部さんの経営者としてのフォーカスポイントはどこにあるのでしょうか。

僕自身は、何かを科学することがとても好きです。「社会の真理や、ものごとの本質とは何か」をずっと考え続けています。

そう伝えてしまうと、「頭よさ気なことを言いやがって」と思われるかもしれませんが(笑)、そんな複雑なことでなく、過去の情報を大量にインプットし、現在と紐付け、未来がどうなるかを想像することが好きだというだけです。

よく「御社のプロダクトの競合優位性は?」という質問をされますが、正直そんなものは5年後なくなっていると思っています。そもそもプロダクトにおける競合優位性は情報の非対称性が大きい世の中であれば存在しえますが、これだけテクノロジーが進化すると、相対する二物は同質化していくという力学が働き、どのproductも全く同じようなものになるはずです。

そうなった世界の中で残っていく優位性は「データ」「UX」「組織」の3つになるはずです。データとUXは前途の通り、それに加えて組織も非常に重要です。

日本で言うとリクルートやサイバーエージェントが良い組織であることは周知の事実。且つ彼らが特別オンリーワンのビジネスをやっているかというと、決してそうではない。彼らと全く同じ事業をやっている競合は有象無象存在します。しかし同業他社が彼らを超えられないのは間違いなく「組織創りの秀逸さ」ではないでしょうか。採用や組織デザインにかける想いや哲学は一朝一夕では成り立たず、そう簡単に真似できない。だからこそ、最強の競合優位性になるのです。

この観点で歴史=過去を見ると、数多くの同じような事例が存在します。よく知人の経営者や新規入社者に「なんで組織にこれだけの時間とお金を投資するのか」と言われますが、私的には経営者としてマーケットを席巻する上で至極アタリマエのことなんです。そういった意味では過去から現在を紐付け、未来を予測しながら、運動神経の良い組織をいかに創るかという点に関しては、異常なこだわりがあるかもしれません。

最後に、安部さんがビジョナリーになる過程で、子ども時代も含めて、どのような影響を受けてきたのでしょうか。

子どものころから、常に輪の中心にいました。長が付く役割、リーダーと呼ばれる役割を任されてきました。それは、周りを常に客観的に見ていたからではないかと思います。

学生時代のリーダーもビジネスも、突き詰めるとコミュニケーション活動です。それは、営業であれ、コンサルであれ、人事であれ同様です。エンジニアですら自分の作ったものを通してコミュニケートしているわけです。会社もそうです。メッセージを発信し、それをお客さんが買うことでコミュニケーションが成立します。そういう意味で、売上とは「顧客からの共感の総量」ともいえます。どうすれば人の気持ちが動くのか、集団心理の中で何が働くのかというようなことを研究する、そして実現することが昔から好きでした。

小さい頃、経営者だった父が、「日本というのは人材しか資源がないから、人材を活かせないと、日本は外的要因ではなく内的要因でつぶれていく」といっていました。結局、教育を変えるにしても、政治を変えるにしても、経済を変えるにしても、共通するのは人の影響力が必要だということです。

僕にとって圧倒的影響力が持てる仕事は何だろうと考えると、選択肢は経営者しかありませんでした。だから今、この場に立っています。といっても、ミッションが実現できるのならば僕が役割としての社長を担う必要など全くないとも思っています。僕よりもビッグピクチャーが描けて、ミッションに対して一番の近道を示せるリーダーがいたら、僕はいつでも代わってもいいと思っています。

本日はありがとうございました。