インタビュー

エムスリーの事業と今後の成長戦略

2015年6月1日

エムスリー株式会社

取締役 横井 智氏

1997年東京大学思想文化学科卒業後、日系大手メーカー勤務を経て、モニターグループ入社。 2003年ソネット・エムスリー(現エムスリー)入社。医薬品マーケティング、調査事業立ち上げなどに従事した後、教育関連企業の経営企画、出版社の経営などを経験し、2009年6月よりソネット・エムスリー(現エムスリー)の取締役に就任。現在に至る。

エムスリーの事業について教えてください。

エムスリーの事業は、「インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を一人でも増やし、不必要な医療コストを一円でも減らすこと」というビジョンが根本にあります。これは日本に限らず、海外の事業にも当てはまります。

日本に限定しても、可能となる医療サービスは数多くあります。そこで、私たちは、世の中でエムスリーにしかできないことを中心に、優先順位をつけて事業を展開してきました。たとえば、私たちは多くの医師が集まる医師向けポータルサイト「m3.com」を運営し、そのサイトを活用したサービスを中心にやってきました。

なぜ医師をターゲットにしたかというと、日本を含めた世界中の国々で、少数の医師が多くの国民の健康に大きな影響を与えているからです。一人の医師に付加価値が提供できれば、日本を例にとると、500人の患者さんにもその影響範囲が広がる、まさに「500倍のテコが効く」のです。私たちのようなベンチャー企業が、大きな事業価値を実現するには、これが一番の近道でした。

私たちは、医師たちが集まるメディアを作り、「医師が情報を得る」という過程に関わっています。エムスリーのメディアを通じて発信された情報を多くの医師が利用し、それを元に患者さんに最高の医療サービスが最適なコストで提供されていく・・この仕組みを作っていくのが、エムスリーの大きな事業の柱なのです。

現在、医療従事者向けポータルサイトである「m3.com」は、日本の医師29万人のうち25万人以上が会員登録しています。先に申し上げた「500倍のテコ」の計算からすると、日本人1億人以上の健康に貢献することができるということを意味しているのです。

これまで、製薬会社から医師向けの情報提供のほとんどは、人(MR)を介して行われており、日本全体で年間1兆円以上という膨大な医療費負担となっていました。エムスリーの事業によって、現在は4割近くの情報収集がインターネット経由で行われるようになっています。インターネット経由の情報伝達コストは、人経由に比べて50分の1ですから、このコスト構造を改善することでエムスリーの成長が実現でき、かつ、「不必要な医療コストを1円でも減らす」という事業目的も達成できるのです。

今後、どのような成長をしていくのでしょうか。

大きく、3つの成長の柱があります。

  1. 既存事業の深掘
  2. 海外展開
  3. 新規事業

です。

1.の「既存事業の深堀」ですが、まだまだ途半ばです。たとえば、2000年の創業以来、コア事業として展開している医療ポータル事業(医薬品マーケティング支援など)を見ても、この3年間で約1.5倍成長しています。日本国内だけでも医薬品の営業・マーケティングに1兆を軽く超えるコストが投資されていることを考えると、より深く掘っていけることに同意いただけるのではないでしょうか。

2.の「海外展開」では、日本以外にも、米国、中国、英国、韓国などに現地法人を持ち、新たなチャレンジを始めています。その他の国でも、現地の有望な企業との資本提携、業務提携を狙って、既に複数のアプローチが始まっています。米国だけでも医療費は日本の6倍ですし、海外展開には、非常に大きな可能性を感じています。

そして、3つ目の成長軸は、健康に関して世の中を改善していける様々な「新規事業」です。
エムスリーは大きな転換期を迎えています。医薬品の研究・開発支援事業や医療従事者のキャリア支援事業では、従来のインターネットのみで完結する事業モデルから、ネットの力を活かしつつリアルのオペレーションも改善していく事業モデルに進化をしています。

更に、患者向けサイト、病院予約システム、さらにはゲノムビジネスでも事業開発が進みつつあります。今後も引き続き、医師、患者、病院、企業など医療に携わる全てを対象とした様々な新規事業を、次々に生み出していきたいと考えています。

このように、エムスリーの事業展開はまさに今、将来の成長に向けて実力を問われるエキサイティングなフェーズに差し掛かっており、これから何年もかけて休むことなく1つ1つの事業機会を拓いていく成長イメージを持っています。

エムスリーは、少数精鋭、高収益という印象が強いですが、今後も同様のスタイルで成長していきますか。

はい。ただし、事業スタイルは変わっていきます。確かにこれまでは、少数精鋭、高収益、インターネット特化、という事業がメインでした。

最近では、インターネットのサイトだけでなく、実際に「人やオペレーションを大きく持つ事業」が始まっています。例えば、薬剤師、医師の転職サービスを行っていますが、過去のエムスリーであれば、プラットフォーマーとして、インターネットメディアを確立し、フィー収入を得るというビジネスで完結していました。しかし現在では、転職支援を行うコンサルタントも自社で持つようになりました。

製薬企業向けの営業支援でも、eプロモーションサービスに留まらず、MRの派遣事業にも進出しました。よく垂直統合などといいますが、バリューチェーン上で、インターネット以外の部分、それが仮に人をたくさん抱えるオペレーションを伴うものであったとしても、積極的に取り込んでいくやり方に変わってきています。

ただ、オペレーションが伴うとはいえ、エムスリーしかできないような独自のモデルによる、充分な収益を目指す姿勢に変わりはありません。付加価値が高いものは、「他で手に入らないから値段が高い」のです。

新規事業は、国内で築いてきた医師とのネットワークをベースとした事業が中心ですか。

これまで培ってきた、「医師とのネットワーク」、「インターネットの強み」をレバレッジできることは、新たなことをやる際にも非常に重要だと考えています。

エムスリーの非常に強いところは、「医師が毎日アクセスする場」を持っていることです。これは非常に大きなアセットであり強みなのです。これを最大活用し、付加価値の高いビジネスを構築していきます。

エムスリーは東証一部に上場しており、「既に大きくなってしまった会社」だと見る人もいます。

いえいえ、それは全くありません(笑)。いまでもベンチャー企業です。チャレンジ中の新規事業、未着手の事業は数多くありますし、既存事業でさえ、やることがまだまだたくさん残っています。事業としての伸びシロが質・量ともに、非常に多い状況です。海外においても同様です。

私自身も、新しいことを学びながら成長していかないと、とても対応できないと感じています。今も、どんどん若いメンバーが責任ある役割にチャレンジしています。

それに、先ほどお伝えしたように、人やオペレーションを大きく持つ事業も続々と始まっていますので、これまでのエムスリーとは異なるノウハウやスキル、知識が必要となってきます。そういう意味では、今のエムスリーにはいないようなタイプの人にもぜひ、入社して欲しいと思っています。

最後にメッセージをお願いします。

今後のヘルスケア分野のポテンシャルは非常に大きいといえます。「健康保険でカバーされる医療」と、「それ以外」に分けた時に、前者は効率化によってどんどんコストが削減されていく余地があり、それこそが大きなビジネスチャンスとなります。そして後者には、更に多様な可能性があります。

トータルでいうと、人がもっと健康に、もっと楽しく生きるために使うお金は増えると言えるでしょう。大きなポテンシャルがありつつも、まだまだ未完成なエムスリーで、ぜひ一緒に大きな絵を描いて頂きたいと思います。