インタビュー

医師の世界から、日本の医療を変えるスタートアップに飛び込んだ理由

2015年8月20日

株式会社メドレー

代表取締役医師 豊田剛一郎氏

1984年生まれ。東京大学医学部卒業。聖隷浜松病院での初期臨床研修、NTT東日本関東病院脳神経外科での研修を経て、米国のChildren’s Hospital of Michiganに留学。米国医師免許を取得するとともに小児脳の研究に従事し、初の英語論文が米国学術雑誌の表紙を飾る。2013年よりマッキンゼー・アンド・カンパニーにて主にヘルスケア業界の企業へのコンサルティングに従事。2015年2月に株式会社メドレーに参加し、共同経営者に就任。医療情報提供に関する意思決定の最高責任者。

豊田さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

もともと親戚に医師や病院で勤務している人がいたことから、幼いころから医療は身近な存在であり、医師という職業に自然とあこがれを抱いていました。その中でも、高校生くらいから全ての思考や行動を決定している「脳」という臓器に強く興味を惹かれ、脳神経外科医を志しました。医学部卒業後、研修体制が充実していること、多くの経験ができるような忙しい病院であること、地域の広域な医療を支えている中核病院であること、などを考慮して浜松の聖隷浜松病院という病院で初期臨床研修を行いました。浜松での日々は非常に忙しかったですが、上の先生など含めて恵まれた環境で研修できましたし、「私は医師になったのだ」という実感もあって、充実した毎日を送っていました。今でも医師として根幹は浜松で育まれたと思っています。

しかしながら、研修を行うその一方で、「この病院は地方都市では医療スタッフの人数などにおいて恵まれた環境だが、もっと医師の少ない病院がほとんどという状況で、これから高齢化に伴い患者数の増加が避けられない日本の医療は継続可能なのだろうか」という問題意識を感じ始めました。日本は国民皆保険で、世界的に見てもとても患者さんにとって恵まれた制度であり、日本の医療に対する評価は高いです。これほど、いつでもどこでも誰でも、安い値段で良い医療が受けられる国などないわけです。

ただ、実際に医師として働いてみると、その代償が現場や国の財政に重くのしかかっている状態に直面しました。今のままの制度で、例えば30年後に、質の高い日本の医療が保てているのだろうか、破たんしているのではないだろうか、と感じ始めました。病院で働く医師についてもそうです。素晴らしい医師たちが、激務の中で苦闘する状況が果たして今後改善され、来たる未来に対応できるのかを考えると、決して楽観的には考えることはできませんでした。

私はその後の後期研修で脳神経外科医として働いていましたが、働けば働くほどこういった大きな仕組み自体に問題意識を持つようになりました。そして多くの先生の助言も頂き、医療以外の世の中の仕組みを知り、日本の医療を外から見るために、思い切って医療の世界を出ることにしたのです。そこで選んだのが、マッキンゼーでした。医療を考える上で、知っておくべき世界は病院だけではありません。医療を取り巻くプレーヤー、例えば行政を始めとして製薬会社、保険会社、健康保険の仕組みなどについて知見を深める必要があると考えました。マッキンゼーは素晴らしい会社で、医師の世界しか知らない私にとって、幅広く「企業」を知りビジネスを知る最良の機会となりました。その後、幼い頃からの友人である瀧口の誘いもあり、自分自身が持っている本当の問題意識を形にするべく、メドレーに参画しました。

なぜメドレーでやろうと思ったのですか。

私自身が医療現場で持っていた問題意識とその解決の方向性と、メドレーがやりたいこととが一致したからです。メドレーがやろうとしているのは、「日本の医療を良くすること」です。もしくは、「良い医療を保つために必要な変化を、ITを活用してサポートすること」とも言えるかもしれません。瀧口は、自身の祖父を胃がんで亡くしたときの体験をきっかけに日本の医療に問題意識を抱き、メドレーを創業しています。これは、患者側からの原体験です。私は、医師としての原体験に基づく問題意識を持っています。同じ課題に対して、異なる原体験を持った者同士、メドレーという場で一緒に医療の抱える課題に挑戦するのはある意味必然だったと言えるかもしれません。 

医師をはじめとした医療従事者は、本当に一生懸命に働いています。これはもう、ピュアに患者さんと患者さんの家族の幸せのためです。少なくとも私が出会ったドクターの9割以上は、患者のために喜び、患者のために悩むような本当にとても素晴らしい先生たちでした。真摯に医療に従事しています。しかし、悲しいことに、患者と患者の家族の想いと医師の想いが、お互いの理解が不十分な故に往々にしてすれ違うのです。同じ幸せを求めているはずなのに。このすれ違いにかかる労力は、日本の医療全体にとって大きなロスになっていると思います。

この点について私が強く感じたのは、「患者さんたちにもっと医療や病気の知識があって、限られた時間の中だとしても、もっと医師ときちんと深く話しあうことができていたら違う結末になったのではないか」という場面がとても多いのではないかということです。私は日本の医療リテラシーをもっと上げたほうがみんな幸せになれるはずだと感じていました。患者さんが知るべき情報をきちんと伝えるにはどうすればよいか、それを実現するためのシステムを作ることはできないか。瀧口とは、原体験こそ違えども実現したいものは同じでした。患者さん向けに、信頼できて行動に繋がる医療情報を提供したい、ということです。これを作り上げることが、当面の重要な目標です。

メドレーで今後、具体的にどのようなことをやっていくのですか。

端的に言うと、患者さん向けの医師たちがつくるオンライン病気事典です。病院に行く前の人が病気のことを予習したり、診断をされてその病気についてより深い情報知りたい人の情報源になったりと、患者さんの様々なフェーズで必要となる情報をカバーしていくつもりです。

例えば、何か体に不調があって病気かなと思ったときに何をしますか? まず、病院に行くか、インターネットで症状や病院を調べるか、のどちらかが多いのではないでしょうか。こういった方が「まずMEDLEYを見る」という世界を作りたいです。もし、症状に悩んでいたるときに、症状から病気を探すきちんとしたシステムがあれば、「自分のこの症状は、どのような病気の可能性があるのだろうか」という、病気の候補を知ることはできます。もちろん医師として、オンラインの情報で病気の可能性をひとつに診断することは難しいと考えています。実際の医療現場ですら診断するということは難しく、時に間違うこともあるわけですから。しかしながら、患者さんが何も知らないまま病院へ行くのではなくて、自身の症状を調べるプロセスで、自分の症状や可能性のある病気についての理解を深めておくことに意味があると思うのです。

なぜならば、医師として患者さんに向き合う瞬間はたいてい、そもそもなぜ来院されたのかも分かりません。患者さん自身も、自分の症状がどのような病気かという仮説もなく、お互いにゼロとゼロからスタートするのが通常なのです。よく日本の医療は「3分診療」といわれますが、平均的な診療時間のうち、1分半か2分ぐらいは、前提となる理解に費やされてしまいます。本当は、その患者さんに特化した話や、患者さんの理解を深め今後の治療の重要さを理解してもらうことに時間が使えたらどんなに良いことか、と思っている医師がほとんどなのですが…

ここから、「患者の医療リテラシーが上がることは、医師の仕事のサポートに繋がる」という私自身の想いにつながってきたのです。限られた時間の中で、医療を通して幸せを求める患者さんとその家族と、患者さんのために仕事をしている医師にとって、より深い意義あるコミュニケーションを実現するには、医療リテラシーの問題を避けて通ることはできないと思っているのです。

今の話は病院に行く前の方にどのようにMEDLEYを使って欲しいのかという話です。その他にも、何かの病気であると診断された方の悩み、例えばどのような治療法が一般的でどのように治療法を選ぶべきかなどの悩みに対しても、患者さんが納得して選択することができるような情報を提供していきたいです

豊田さんの話には、一貫して、「元同僚」ともいえる医師への想いが感じられます。

臨床の現場を離れ、そしてたくさんの医師に協力してもらうサービスを作っている中で改めて感じるのは、医師という職業の素晴らしさと、医療へ従事する人たちへの心からのリスペクトです。彼らは本当に凄い存在です。だからこそ、医師や医療従事者の良心に頼ることを続けて絶対につぶしてはいけません。身を粉にして働いている人たちは、もっとサステイナブルな環境やシステムの下で働かなければいけないと思っています。

私は、医師がやっている行為の中で、代替可能なものにはなるべく医師が関わらず、医師がどうしても必要なところに医師のリソースを集中させるべきだと考えています。そうでなければ医師不足は絶対に解消しません。今後患者が増え、医療従事者も含めた若手の労働力が減る日本において、これは必ず解決しなければならない問題なのです。

私たちがやっていること、やろうとしていることは、誰と話しても胸を張って正直に話すことが出来ます。だからこそ、メドレーにたくさんの医師が協力してくれているのだと信じています。メドレーのビジョンを伝えた医師は皆、メドレーを応援し、協力してくれています。「患者のため、医師のため、日本の医療のため」ということを愚直にずっと言い続けますし、やっていくつもりです。

メドレーという会社にどのようなポテンシャルを感じていますか。

人です。これに尽きます。
メドレー社内には、私を含めて医師・医学部経験者が4人います。日本のスタートアップとしては極めて稀です。そして元グリーや元リクルート、弁護士、エンジニアと一緒に日々働いています。メドレーはあくまでもインターネットの会社であり、かつテックベンチャーです。医師だけでは何もできません。医療とは関係のない世界で今まで働いていた人たちが、「患者のため、医師のため、日本の医療のため」という志の下に、他では出来ないインパクトをこの会社なら出せると思って集まって来てくれています。そして今までにないシステムを作るためには優れたエンジニアの存在が不可欠ですが、有名なスタートアップのCTOがジョインするなど、本当に毎週チームが強化されています。

メドレーは、日本の抱える大きな課題に対して、正面突破で解決をしようとしているので、本物の志のあるプロフェッショナルたちでチームを組む必要があります。日本の医療のためには何が必要なのか、患者さんにとってあるべきサービスは何か、どうしたら医師が心から応援してくれるプロダクトを作れるのか、本当にそればかり毎日議論し突き詰めた上で、成功させようと皆で話しています。その愚直なビジョンに共感した人が集まってきているということです。目指す道のりは険しいですし、スタートアップが何をできるのかはまだまだ未知数です。しかしながら、「このチームで出来ないわけがない」と自信をもって言えるような、素晴らしいメンバーによる強力なチームが出来つつあります。このポテンシャルに心からわくわくしています。

メドレーでは、今後の更なる成長に向けて積極的に採用を行っています。 ご興味をお持ちの方はこちらからご連絡ください。