インタビュー

自分が得意なことをやればいい。 日本人起業家がシリコンバレーで感じた大切なこと | 柴田 尚樹 氏(前編)

2013年10月1日

SearchMan

Co-Founder 柴田 尚樹 氏 / (Naoki Shibata, Ph.D.)

1981年生まれ。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略専攻 博士課程修了。2006年に楽天株式会社入社。同社の最年少執行役員、東京大学助教を経て、スタンフォード大学の客員研究員として渡米。米国Paypal出身のDave McClure氏が設立したファンド「500Startups」の出資を受け、シリコンバレーにて起業。現在、SearchManのCo-Founderとして、「App Discovery」の問題解決に取り組む。

SearchManが非常に伸びており、有力メディアでも頻繁に取り上げられていますね。

シリコンバレーで起業し、500 Startups等からの出資を受け、SearchManというスマートフォンアプリデベロッパー向けのサービスを提供しています。SearchManは、スマートフォンアプリを開発しているデベロッパーの多くが抱える、「自分たちのアプリをもっとユーザーに発見してもらえるようにしたい」という大きなニーズに対応したものです。現時点で約12,000社に導入され、既に黒字化しています。顧客の比率も、米国50%、日本25%、欧州25%となっており、自然と理想的な割合になってきているのかなと思っています。

前回お会いした際には、AppGroovesというコンシューマー向けのプロダクトがメインでした。AppGroovesは、ユーザーが現在利用しているiPhoneアプリの情報を元に、独自のアルゴリズムで、そのユーザーにフィットする新たなアプリを紹介するという、注目度も高いものでした。

僕が最初にiPhoneを手にしたときに、これはすごいと思ったのですが、うまく自分に合ったアプリが探せませんでした。英語では「App Discovery」といいますが、そこには大きな問題があると感じまして、そこを解決することができればビジネスになると思いましたし、何より、世の中にとっていいことだと思って始めました。

最初は、みんなコンシューマーのビジネスに憧れますからね。私もまさに、そうでした。それでコンシューマーのビジネスをやろうと思って、アプリのレコメデーションをするプロダクトを出したのです。

ある程度立ち上がりはしたのですが、グローバルで見ると勝てるスケールとはいえませんでした。Instagramなどのように、グローバルで通用するスケールと言えるためには、「初年度で1000万ユーザー以上は獲得しなければダメ」という世界ですから。AppGroovesも、初年度100万ユーザーであれば行けそうでしたが、今、それくらいのプロダクトは世界に山ほどあります。

グローバルで勝つために「しばらく日本に帰らない」とタンカを切ってシリコンバレーに残ったのに、だんだん「これではまずい..」と思うようになりました。

一方で、AppGroovesを出した後に意外だったのが、アプリのユーザーであるコンシューマーだけでなく、アプリのデベロッパーからどんどん連絡が来たことです。「どうやったらアプリのダウンロード数を増やせるか、教えてくれ」という話でした。「ちょっと待てよ。ひょっとすると、こっちの方が大きいニーズなんじゃないか?」と思うようになったのです。

そこで、ユーザーにアプリを見つけてもらい、ダウンロード数を増やせるようなサービスを、デベロッパー向けに提供しようと思いついたのです。アプリケーションを見つけやすくしたいという問題は以前からあり、「App Discovery」と呼ばれています。例えば、リワード広告のように、このアプリをダウンロードしたら、ポイントをあげるというようなこともできます。でも、僕はそういうものよりも、「検索」×「App Discovery」という切り口で、検索エンジンにしっかりとインデックスされるアプローチ、「アプリのSEO」という方向を選択したのです。それが思ったより早期に軌道に乗ってきて、現在に至ります。

いわゆる、「ピボット」と呼んで良いのでしょうか。

確かに、ピボットと言えるでしょうね。ただ、いろいろなピボットがあると思います。コンシューマー向けアプリレコメンデーションのAppGroovesと、デベロッパー向けのツールであるSearchManでは、一見、異なる方向へのピボットに見えるかもしれませんが、僕の中では「解くべき問題」は変わっていません。あくまでも、「App Discovery」。つまり、自分に合ったアプリを探せるようにすることです。この問題を、コンシューマー側から解くのか、デベロッパー側から解くのかの違いだけです。

僕の感覚だと、「全然違うことをやるなら、1回解散して別の人と別の会社でやったら?」という気はしますが、最近のY Combinatorの事例などを見ていると、あまり関係ない方向へのピボットでもうまくいく場合があるので、それは何とも言えませんね。

最初のプロダクトや事業で当たるよりも「当たりにたどり着く」ということの方が多いかもしれませんね。

そうですね。シリコンバレーで今は有名になっている創業者たちも、これまで結構外していますよ。そういうスト―リはあまり表に出ません。みんな、うまくいってから、昔話としてきれいに語りますよね。デザイン製品のeコマース分野で勢いのあるFab(fab.com)の創業者なんかは、Fabにたどり着くまでに、VCから出資されたお金を何十億もダメにしているでしょう?みんな、最初はもう、外しまくりですよ(笑)。

AppGroovesからSearchManへの方向転換に周りから賛同は得られましたか。社員や投資家などから反対は?

関係者にも「これは初年度1,000万ユーザーにはならないし、Instagramのようにはならない。初年度100万ユーザーでぼちぼちやるか、とっとと変えるか、どちらがよいか」という話をしたら、「とっとと変えたほうがいい。初年度1000万ユーザーにならないことが分かっているなら、チマチマやっていても仕方がない」という話になりました。そういう意味では、賛同はスムースに得られたといえますね。

SearchManがメインになってから、CEOを外から迎えたそうですね。

確かに僕が創業した会社ではありますが、僕自身はCEOではありません。ビジネスのメインをSearchManに移行した際に、NirenというCEOを迎えました。Nirenはもともと米国Yahooにいて、その後、AdMob(後にGoogleが買収)のヴァイスプレジデント(VP)を務めた人物です。また、CTOにあたる人材も入社してくれたので、随分体制が変わりました。日本では考えられないかもしれませんが、僕は、今、基本的に人のマネジメントをしなくてよくなっています。

シリコンバレーで勝負しようと思ったら、自分よりも経験があって、優秀な人を入れないと勝てません。

特に、近い領域で、間違いをたくさんしてきた経験がある人がいいです。過去にたくさん間違えてきた人は、もう同じことはやらないですから。

それに、優秀な人材を採用するにしても、パッと見て分かりやすいことが重要です。「東大で博士課程を修了してから楽天の執行役員、その後、スタンフォード大学に行って…… 」という僕のキャリアは、日本だと分かりやすいですが、シリコンバレーに行くと東大も楽天も通じません。投資家へのピッチと似たようなもので、数語で伝わる方がいいのです。

「CEOは、日本から来た柴田という男で、楽天という日本最大手のECの…」とか言っている時点で、もう長い(笑)。一方、「CEOは元AdMobのVP」と言えば、シリコンバレーでは一発で誰にでも伝わります。

日本ではなかなか持ちえない感覚ですね。柴田さんはどうやってそのあたりの勘所を掴んできたのですか。

実は、シリコンバレーでも超が付くほどの名門ベンチャーキャピタルに呼ばれて訪問した際に、「お前は面白いし、気に入ったけど、お前がずっとCEOをやっていて、短期間にとてつもなく大きな会社になる感じがあんまりしないんだよな」と言われたのです。「これは普通の人にはあまり言わないんだけど、お前のために敢えて言っているんだから落ち込むなよ」と…

落ち込まないわけではなかったのですが(笑)、良く考えると、その通りだ、と。「よく分からない外国から来て、なんか賢そうだけど、こいつが10億ドルぐらいのビジネスを作るかというと、よく分からない。仲間もいるのかいないのかよく分からない。」と。もっともですよね、それは。今は、はっきり言ってくれたことにすごく感謝しています。

それで役職に対するこだわりがなくなった、と。

現に、僕はCo-Founderというだけであって、CEOでもCTOでもありません。CEOを迎えたことについては、「自分の上司を雇っている感覚」ですね。VCからの出資を受けるのも、ある意味監視をされることにもなるので、これに近い感覚と言えるのではないでしょうか。上司を雇うという感覚は、僕にとってはあまり抵抗がありませんでしたが、シリコンバレーにももちろん、自分がCEOでないと嫌だ、という人もいますよ。

CTOについても同様ですね。エンジニアリングチームが小さいうちは、僕がヘッドでも良いのかもしれませんが、大きくなってきたときにはそれでは良くないと思っています。

そういう意味で、暫定CTOとでもいうべき人材を迎えてやってもらっています。オフィシャルにCTOというタイトルをつけないのは、CxOといったタイトルの人が早い段階からたくさんいると、事業が変化したり、進化した場合に、適切な経営幹部を、適切なポジションで迎えられないからです。

ただ、CEOだけはどうしても必要です。「訴訟されたときに誰が矢面に立つのかといえば、それはやはりCEOだからね」と、Nirenにはよく話しています(笑)。僕自身は、本当にタイトルに対するこだわりがないんです。

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