インタビュー

パネイルは電力小売り向け基幹システムを武器に、エネルギー業界のゲームを変える

2018年9月20日

株式会社パネイル

代表取締役 名越 達彦氏

東京工業大学工学部開発システム工学科卒業。在学中、鳥人間コンテストにて技術統括としてチーム初の優勝に貢献。卒業後は株式会社ディー・エヌ・エーにおいて、営業、人事、マーケティング、エンジニアリングなど幅広い業務に従事。その後、株式会社エイチームの事業開発室長として全社新規事業を統括。2012年12月、株式会社パネイルを創業、代表取締役社長に就任。2018年4月に東京電力との共同出資による株式会社PinTを設立、取締役副社長。

ユニコーン企業候補の筆頭として注目される、パネイル。累計資金調達額は31億1000万円、時価総額は700億円以上、年間売上高は約80億円から次年度に数百億円に伸長するなど、規格外の成長を遂げています。B2Cではない、骨太なB2Bスタートアップは貴重であり、プロコミットも大いに注目・支援をしています。

はじめにパネイルのビジネスモデルについて教えていただけますか。

電力会社を中心としたエネルギー業界用の基幹システムを提供し、それをベースに一緒に新たな価値や事業を生み出していくことを目的としています。電力流通の業務を圧倒的に効率化し、コストを大きく削減することができます。

電力会社には3種類あって、「発電」「送電」を行う会社と、その電力をエンドユーザーに販売する「小売り」会社に分かれます。インターネットでいえば、前者はフレッツ光などのデータ通信ネットワークで、後者はプロバイダに該当するものです。2016年に実施された「電力自由化」は、この小売りを自由化することであり、これまで電力を手がけていなかった異業種からも参入が進んでいるのはご存知のとおりです。われわれのメインサービス「パネイルクラウド」はこの小売業者専用の基幹システムで、いわば、ラストワンマイルをスピーディーに、柔軟かつ拡張性の高い仕組みで運用するためのシステムです。顧客管理や需給管理など、電力小売事業に関わる一連の業務を一気通貫して行えます。これまでの手作業もコンピューターやAIに置き換えるなどして、大幅に効率化が可能です。要するにエネルギー供給が自由化されて電力小売業者が増え、そこで毎日、高頻度で利用するシステムをクラウドで提供しているというわけです。電力というのは非常に大きな市場ですから、改善インパクトは莫大です。だからこそユーザーにとってメリットも大きく、私たちの売上も規格外に成長しているのです。

既存のシステムを置き換えるイメージですか。

そうですね。よく古い金融の業務システムが「レガシー」といわれますが、電力業界も同様です。これまで使われてきたシステムは非常に重厚長大で使い勝手が悪く、コスト高です。そのため、供給者側はなかなかエンドユーザー向けのサービス向上に注力することができていません。電力のエンドユーザーからすれば、電力自由化によって期待してしまうような、「豊富なサービスラインナップや新たなオプションの提案」といったものを得にくい環境にあります。既存のレガシー的なシステムに機能を加えるのは複雑な作業ですし、高額なコストがかかるもの。ウォーターフォール型の開発などを行えば、1年2年はあっという間で、市場環境も様変わりしてしまうでしょう。

そこにインターネットを持ち込んでアジャイル型の開発・運用を可能にしたのが「パネイルクラウド」なのです。入れ替えのメリットはコストもありますが、大きいのはスピード感。改善の早さが何よりも喜ばれています。

パネイルみずからも電力小売事業を営んでいますね。

私たちは「札幌電力」「宮城電力」「東日本電力」「東海電力」「西日本電力」「広島電力」「福岡電力」という、子会社を通じて電力小売事業を行っています。いずれもパネイルクラウドをフル活用しており、初期費用ゼロ・工事不要で手間を少なく、より安く、電力を供給することができています。

実はもともと、「パネイルクラウド」の実績をつくり、クライアントである電力各社に評価をいただけるように、と電力小売を始めたのです。先方の課題を解決できる素晴らしいシステムだと自負していましたが、「実績がなければ評価ができないし、リスクも取れない」というのが大方の反応でした。それならば、自分たちで実績をまず作ってしまおうと思ったのです。自ら手がけている電力小売でも大きな売上成長を実現していますが、それよりも大きな意味があるのは、実績を積んだ甲斐あって、電力業界においてパネイルの存在が知られるようになり、今では実績を問われることがなくなったことです。また、2018年4月に東京電力との共同出資で、PinT社を設立したことでとても大きな注目をいただきました。PinTは「パネイルクラウド」を用いて電力・ガスの全国販売を行う会社ですが、東京電力と組んだことで非常に大きな事業インパクトが見込めます。

そこに至るまでは数々の交渉を重ね、当社に対しての評価もしっかりと行っていただきましたが、パネイルの電力供給に関する知見について、東京電力から高く評価をいただけたことは画期的だったかと思います。やっとここまで来られました。

パネイルの強みや特殊性はどのようなところにありますでしょうか。

パネイルのビジネスの本質は、旧来の重厚長大なシステム開発をやめて、「インターネットのやり方」を持ち込んだ点にあります。システムの考え方も、技術も、開発の仕方も、チームの作り方も、ビジネスの作り方そのものも、すべてです。インターネットでできることは全て、私たちでできるという考え方に基づいています。既存のシステムに慣れていたユーザーにとって、安価であるだけでなく、ウェブサービスのように圧倒的に使いやすく利便性の高いシステムは大きなメリットを感じてもらえたようです。

 

しかし、これは簡単ではありません。私自身、DeNAやエイチームといったインターネット企業で、一貫してB2Cのサービスを行ってきました。ところがパネイルのビジネスはB2Bの業務システムです。しかもサービス提供先を考えると数百万人をユーザーとして一気に世の中を席巻するようなやり方は通用しないわけです。そこは工夫を要しました。

また、電力という業界自体、歴史があり、エスタブリッシュなプレイヤーがひしめく世界です。そこに新興勢力として「インターネットで業界を変えるのだ!」と一気呵成になだれ込んでも受け入れられるものではありません。電力とインターネットを掛け合わせ、融合を推し進めていくには、丁寧なアプローチと本質的な協働が望ましく思えました。

そうして出した答えが、一緒にリスクをとって事業をつくること。システムを納めるSIerではなく、システムを軸にして共同事業として成立させるということです。ビジネスの企画からサービスの構築、カスタマーサポートまで全てを共同で行うのです。そうやって血を通わせながら、PinT社のように各社と深いアライアンスを組み、出資も行うといった流れができたのです。

今後の展開をどのように考えていますか。

東京電力だけでなく、さまざまな企業と共同事業の交渉、計画が進行中です。これまで電力小売りに関わってこなかった会社がパネイルと組むことで、既存のユーザー基盤を元に新規事業として立ち上げていくようなストーリーも想定しています。

「パネイルクラウド」は、電力およびエネルギー業界における「OS」のようなものだと考えています。たとえば、Windows95が出てきてインターネットにつながったことでユーザー体験が格段に向上し、活用のされ方も大きく変わりました。そういう力がインターネットにはあると私は信じているのです。同様のイメージで、電力会社と協働しながら、新しい事業や価値を一緒につくっていきたいですね。

ですから、「パネイルクラウド」をプラットフォームとして、お客様が求める世界を一緒につくっていけるのがパネイルであると、思っていただけるようになっていきたいです。また、その先にはエネルギー業界に留まらず、「インフラ全般」をターゲットに、電力・ガス、水道・通信…と広範なフィールドを見据えています。

なぜ「電力」という領域にチャレンジしたのですか。

事業家として、フラットにいろいろなビジネスを検討しました。レストラン予約システムやC2Cのマッチングアプリ、フィンテックのサービスみたいなものも、ひととおり考えたのです。その結果、エネルギー業界がもっとも参入するプレイヤーが少なく、かつ成長性も見込め、社会的意義が非常に高い領域であり、相対的に私たちの知見の価値が出せると踏んで、主戦場と定めたのです。

そして、エネルギー業界で何が求められているかを考えた時に、システムに課題があり、そもそもインターネットの恩恵が受けられていない状況が見えてきた。そうやって一つひとつ考えていきました。もともと技術者なので、技術が生み出す価値についてはしっかり足下を固めながら、一方でビジョンから見て、業界で求められるものやこれなら人が集まるという考え方などを考え抜き、絵を描いていくのです。その姿勢はパネイルのカルチャーとなっていて、われわれは「熟考する」ことを非常に大事にしています。

パネイルは成熟度の高い「大人ベンチャー」に見えます。エスタブリッシュとの関係値も大切にしながら大きな成長とも両立している点で。

レガシーな業界だからこそ、並大抵の努力ではありませんでした。いま、こうして様々なユーザーやパートナーの方と事業ができているのはとてもありがたいことです。コアである「パネイルクラウド」の完成度も一定水準に達することができています。また、東京電力と共同で事業を始めるというPinT社を立ち上げられたことは非常に意味があります。業界のエスタブリッシュ企業や慣習に配慮しながら、丁寧に進めてきたことの結実だと思っています。

また、パネイルではバックスクリーン直撃の特大ホームランを狙ってバットをしっかり握り、真芯で打ち抜いている感じです。それには苦労の歴史もあって、当初はヒットエンドランで、当たらなければ逃げればいいくらいの考えでしたが、市場の評価が思うように得られず…。泥臭いフィールドでもがいた結果、ようやくスポットライトを浴びて大きく行けそうとなったところで、これはもう、ただのヒットでは終わらせられないぞという、個人的な思いもありました。

その攻め方の変化がもたらしたものは何だったのでしょうか。

目の前の小さな成功はあまり求めずに、本当に大きなものに向かっていこうと腹を据えました。それで「世界中のエネルギー市場に最先端のEnergy Techを。」というビジョンを大きく示したのと、向かっていく先が社会的に大きな意義のあるところだというのもあって、パネイルに「人」が集まるようになったのです。その熱量や共感度というのは、それまでにDeNAやエイチームで感じたものよりも、一段高い気がします。それで集まった「良い人」というのは、採用はもちろん、社外取締役や顧問陣においてもです。身に余るほど豪華な顔ぶれの方々が、パネイルが良いことをやっているから助けてやろう、一緒にやろうと集まってくださいました。その方たちの知見やシナジーで、また一段上がっていくなど、今も「人」でイノベーションが進化しています。

これを引き寄せられたのは、パネイルのビジョンであり社会的意義ですが、さらに、人としてあるべき礼節を持ち続けたことが、振り返ると意外にも大きかったと感じています。こうした「姿勢」の大切さというのは、いわゆるネットベンチャー時代には学べなかったことですね。

組織についてはどう考えていますか。事業の急成長に合わせて組織も急拡大させますか。

パネイルでは一気呵成にものごとを進めず、資金調達もシステムづくりも時間をかけ、良い循環をさせて進めてきました。組織をつくるにも一定程度の時間が必要だというのが、私の考えです。組織の拡大は、トップの考え方やビジョンを隅々にまで行き渡らせながら行えるスピードですべきでしょう。むしろ、人に合わせて事業の成長を考えています。一人ひとりと向き合って、その人ができることを見極め、その上で今の会社の状況であればこの打ち手ができるというように、人と事業を見定めて組織をつくっていく。パネイルはまだそれができるフェイズにありますし、その段階で土台をしっかり固めておくことが大事だと考えています。こうした組織のあり方やサイズについての考え方は、一般的なIT企業とは異なると自覚しています。私自身がこれまでの経験で得た、ある意味で反面教師に学んでいる点かもしれません。パネイルではそのくらい、「人」が重要なのです。

パネイルの事業が世の中から注目され、大きく期待される今、求められている人材像を教えてください。

一言でいえば「よい人」ですね(笑)。レガシーな業界ですから、カウンターパートとして自分よりひと世代、ふた世代、目上の方に接することも多いです。その時に自然に、良い印象を与えられることは、意外と大事なこと。気質として、穏やかさや謙虚であることは大切です。あとはこの、レガシーな業界を楽しめる方ですね。最先端でありながら、一つひとつは決して新しいだけではない面もあります。しかしその業界の進化を促し、世の中のインフラ環境を、現実的に大きく変えられる仕事です。社会へのインパクトや自分たちの生活の改善につながる実感を、一緒に得ていける人と事を成したいと考えています。

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