インタビュー

ハーバード博士号を経て、楽天の執行役員へ。幸せを形にする仕事とは。

2013年12月4日

楽天株式会社

執行役員 北川拓也氏

1985年生まれ。灘中学・灘高校卒業後、ハーバード大学に進学。数学、物理学を専攻し最優等の成績で卒業。その後、ハーバード大学院にて博士課程修了。理論物理学者。現在、楽天株式会社執行役員、ビヘイビアインサイトストラテジー室室長。

どんな子ども時代を経て、このような道を歩んでこられたのですか?

常に「メタ」というか、一次元相対化した抽象的な視点から問題を解決しようとする癖が子どものころからありました。特定の問題に対しても、「それが起こること自体がダメだ」というのではなく、もっと仕組みというか、全体のつながりの中で解決していくべき、と考えるタイプでした。

一方で、自分自身の進路や身の振り方については、これでは説明が付きにくいかもしれません。「なぜハーバードに行ったのか」とよく聞かれるんですけど、実はあまり理由はないんですよ、今から考えても。

とにかく僕は徹底的に、自分にとって面白いか、エキサイティングか、強い興奮が得られるか、という視点で選んできたような気がします。楽天に入ったのもそうです。就職活動をしていないので、他の会社と比較検討したわけではありません。三木谷さんと話をして「これだ!」と思ったからここにいる、そんな感じです。データサイエンティストとしていろいろ分析したりしているくせに、矛盾していますかね(笑)。

メタに問題解決する視点と主観を大切にして選択する行動は、相反しそうですよね。

高校生の頃は、「『僕は』何のためにこれを勉強しているんだっけ」ということを、ずっと考えていました。たとえば、ニュートン力学のテコの原理でモノが動く、ということが「僕にとって」何が嬉しいんだっけ?と考えるわけです。完全に主観ですね、これは。そうすると嬉しくないんですよ、別に(笑)。

だから最初は勉強しませんでした。でも、いったん引いて「メタに」考えた時に、「どんな学問分野であっても、それに超・興奮して一生を費やしている学者もいるはずだ」と気づいたのです。ということは、「何か面白さがあるのに、自分にとっての面白さを見つけ出せなかったら、これはとても損するな」、と思って勉強しはじめました。一見、相反しそうではありますが、主観とメタ認知の両極を行き来しているのでしょうね。

ただ、スタート地点はいつも主観です。本の読み方もそうです。主観的であるというのは、「Actionable」であるということ、何か、自分自身の行動に移すことが前提であるということです。

たとえば『Reality is Broken』(※邦題:『幸せな未来は「ゲーム」が創る』)という本を読むとしたら、ショッピングをゲーミフィケーションのフレームワークに乗せるにはどうすればいいのか、自分からこれを作り上げるにはどうすればいいのかを徹底的に考えながら読みます。

「ここは楽天市場でいうと、ランダム性の演出だな」、といったように、主観的に捉えて組み立てていくという読み方をします。理論物理学者として、ユニバーサル(普遍的)な答えを求める基本姿勢はあるのですが、それを意味あるものにするもっとも大事なドライブは、あくまでも主観だと思います。

楽天でのデータサイエンスが、強い興奮に繋がっているのはどういうところですか?

僕の中では、「幸せ」というキーワードが最も大きなテーマです。「楽しい」とか「幸せ」につながるかどうかが、仕事においても極めて重要な要素です。そして、幸せの出発点である「人のEmotion(感情)」を理解したいという気持ちが、楽天に決めた理由です。

楽天市場のキャッチコピーは「Shopping is Entertainment!」ですが、たとえばウインドウショッピングの楽しさは「ものを買うこと」にあるのではなくて、「ものを選ぶこと」にあるんです。だとしたら、楽天のeコマース体験と、実際の店舗におけるウインドウショッピングにどういう共通点があり、どう違うのかを考えると、だんだんアイディアが育ってくるわけですね。

たとえばテトリスって単純なゲームですが、半永久的に続く「フロー状態」に入ることがテトリスの面白さだとすると、そのアナロジーから、ショッピングもデザインしていけるのではないか、といったアイディアがどんどん広がっていきます。「Shopping is Entertainment!」に真正面から取り組むことは、「楽しい」、「幸せ」に取り組むこととイコールだと感じます。

それに、「これからの日本で」、幸せに取り組むというのは、とても意味のあることだと思いはじめたのです。これはある方とお話ししていて同感だったのですが、以前、「ブータン国民の幸福度が高い」と有名になりましたが、果たしてブータンが経済的に豊かになっても幸福度を維持できるのかは疑問です。発展途上段階で誰かがいい車を持ったり、パソコンを持ったりしてお金持ちになり始めたら、周りの人だって欲しがるに決まっている。さすがに車と馬車は違うのだから、「車を羨ましがるな!」というのは無理な話だよね、と。そしてその方は、こうも言っていました。

「だからこそ、日本が面白いんだ」、と。日本は経済的にはすでに発展しきっていますが、それでも幸せの実感値が低い国です。馬車と車の比較ではなく、「車の便利さよりも、歩く幸せの方に価値がある」という考え方すらある国です。とすれば、幸せを「ものの見方や捉え方、価値観」といったものだけで変えられる可能性があるということです。それは、「幸せの伸びしろ」として大きい、と納得しました。

 

北川さんが取り組む「幸せ」とは具体的にどういうものですか?

ポジティブサイコロジーという分野があるのをご存知でしょうか。今までの心理学や医療は、「具合が悪い人を治す」という考え方から出てきていました。病気の人を治すために医療があり、うつの人を治すために心理学が存在するといったように。しかしこの20~30年で、「うつの人を通常の状態にするのと、健康な人が幸せになるのとでは全くアプローチが違う」「もっと普通の人が幸せになるような学問を進めなければ」という考え方が出始めました。

僕もそういう分野を勉強しながら、「幸せとは何か」ということを常に考えています。具体論でいうと、「通勤時間を短くすること」「家の中を静かにすること」「1日10分、死について考えること」「1日1回、人に親切にすること」といったことが、人間の日常の幸福感に直結することが知られています。 例えば最後のこれって、DNAに直結しているんです。人間がサルと何が違うかというと、一緒に何かができることや、物々交換ができることなど、要するに「社会的存在である」というのがカギなわけです。

それは人間が偉いわけでもなんでもなくて、「生物学的に、社会的生活を営むと幸せになるようプログラムされているから」というだけなんですよ。そういうサルだけが進化論的に進化できたから、今の人類があるわけです。だから、僕たちは「社会的な生活を営むと幸せになる」んです。人に親切にするということは、生物学的に幸せになるということなのですね、人間にとって。

ただ、極端な考え方をすると、もし人間の頭がどんな化学物質でも分泌できて、どんな刺激でも与えられるとしたら、人間は脳だけで幸せになれるという映画の『マトリックス』のような世界もあり得ます。恋愛をすれば人は幸せを感じますが、同じ感覚を得られる化学物質を脳内に分泌させることができればいいじゃないか、といったように。しかし、それは倫理的にも技術的にも現実味がありません。だからこそ僕は、人間の幸せを考えるときに、日常生活の中でどういうスイッチを押せば幸せになるのかをできるだけ理解したうえで、取り組みたいと思っているのです。

これは、楽天のサービスを考えるときにも重視をしています。幸せにつながっているのは、物質的・金銭的価値ではなく、「体験そのもの」の価値です。扱う商品の良さだけで幸せを得てもらうことはできません。大切なのは、体験です。幸せや楽しさを感じるのは、買い物全体を通じた経験なのです。

北川さんが仕事で面白さを実感するのはどういう時ですか。

とにかく、「新しいものの見方」を見つけるときですね。購買行動を分析していると、売上が「人間のどういう特性が現れたものが売上なのか」という見方になってくるんです。「これはこういった人間の特性が現れているから、こういう数字になるんだな」「だからこういうボタンを置けば売上が上がるんだな」といった見方ができるのです。

「人間には行動特性があり、その行動特性が数字に表現されてくる」ということですね。ですから、僕らは数字を分析して何かを理解しようとしますが、数字はあくまで「本来的にある人間の性格や行動特性との相関」なのです。

よって、相関しているものをいくつか分析していくことによって、「本質的にどういうことを考えていたのか」、「どういうニーズがあったのか」が分かる、という考え方なんです。そういったことを通じて、「人のEmotion(感情)」に対する新しい見方を発見することは、非常に興奮しますし、面白さの一つですね。

「不安解消のための消費」や「楽しみのための消費だ」など人間行動特性ごとに、事業を横断的に見ているということですね。

まさに、そういうことです。例えば電子マネーの楽天Edyと楽天デリバリーのユーザーは重なっている傾向にありますが、楽天Edyを使っているのはビジネスマンが多いんです。そして、独身のビジネスマンはデリバリーで商品を買うことが多いので、この二つの事業の相性が良いといったことがわかります。

ただこれを事業ごとに見るのではなく、要するに「面倒くさがり」であったり、「新しいもの好き」であったり、そういう人間の性格や行動特性の軸で見ていくことに意味があります。年齢や性別といった軸も確かに大事ですが、根本的な「人間の幸せ」という切り口はもっと大事だと思いますね。

それでこそ本当のサービスだと思います。例えばすごいコレクターで、それを集めることに幸せを感じる人がいたり、お得感の追及に幸せを感じる人がいたり。いろいろな幸せがあっていいはずですし、それをデータサイエンスの観点から支援できるのは非常に面白い、という感覚がありますよね。日本人の幸せを向上させることが、これからの日本の課題だと思いますから。

ユニバーサリティのアプローチとパーソナライズについて、どのように整理をしていますか。

日本の良さ、中庸ですね(笑)。中庸の道というのは日本人の美徳かもしれません。経済学でいえば、マクロ経済、ミクロ経済というのがありますよね。マクロ経済というのは政府などの金融政策の話が中心であり、需要・供給を大きくとらえている。一方ミクロ経済学は基本的に効用(人が商品やサービスを消費することから得られる満足の水準)の話が中心です。

明らかに抜けているのが、そこをつなぐ「ミディアム経済学」であり、僕がやりたいのはまさにそれなのです。 実は、物理学の分野でもまさに同じことが起こっています。近年のノーベル賞の多くはミクロとマクロの間にある領域から出ています。

物理でいうミクロというのは、還元主義でどんどん物をつぶしていったら原子になって、粒子になって、ひも理論にたどり着くといった話です。物理でいうマクロというのが、鉄、半導体、パソコンといったようにどんどん物ができていく側のアプローチです。その間をつなぐ理論のひとつに、「周期表」という考え方があるのです。

周期表には百種類近い原子がありますが、それはモノの数ほど多くはないですよね。モノの数は数えきれないくらいありますから。一方で、ミクロはひも理論1つだけしかないとすると・・・。

1でもなく、無限でもない、ちょうど中間に百何個といった数があるという考え方なんですね。ですから、「ユニバーサリティ」と「個別のもの」の中間地というのはあるんだという考え方なのです。僕が楽天に入った理由のひとつは、その理論を見出したいからです。多分そこに何かしらの真実があると思うんです。それが僕にとってのユニバーサリティと、個の関係の捉え方ですね。

北川さんは、どういう人と一緒に働きたいと思いますか。

とにかく、一緒に興奮できる人がいいですね。特に、ものすごくテクノロジーに通じた優秀なプログラマーとは、本当に一緒に働きたい!そういう人がいたら、ぜひ、話がしたいです。「一緒に、どんなことが出来るだろうか」、って。もちろん、バリバリのデータサイエンティストは歓迎ですし、外資系戦略コンサルティング会社の方や、グローバルに展開する消費財メーカーなどのマーケティングに秀でた事業会社の方にも興味があります。

あとは、全く違う切り口から言えば、IDEOやfrog Designのような、尖がったデザインコンサルティング会社の人とも、面白いことができるんじゃないかと思いますね。会ってみたい、一緒に働いてみたいと思う人はたくさんいますので、興味を持っていただけたらぜひ、アクションを起こしていただきたいです。

一緒に働く人たちに魅力を伝えるなら、どのようなことでしょうか。

「問題を解くのではなく、問題を作る側に回れる」ことが最大の面白さではないかと思います。エンジニアも、データサイエンティストも、コンサルタントも、マーケターも、実は問題を解くことに大半の時間と労力を割いているのではないでしょうか。

ただ、僕はアインシュタインが言うように、「問題を考えることに99%を使い、問題を解くことに1%を使う」という考え方が好きです。

たとえば、レコメンデーションって、非常にセンスのいい問題設定だと思いませんか?機械学習をやっているエンジニアには特に共感してもらえるかもしれませんが、「レコメンデーションという問題を思いついたこと」が、一番すごい。その問題さえあれば、Content Similarity(類似コンテンツ)やCollaborative Filtering(協調フィルタリング)といったアルゴリズムレベルのアイディアは何とか思いつくものだと思います。

Googleにしてもそうです。「情報を検索するというビジョンそのもの」が、抜群にセンスがいいと思うんですよ。僕たちのチームでは、「問題を作る側に回れる醍醐味」を、強く感じてもらえるのではないかと思うのです。「イノベーションは問題を解くところからは生まれない、問題を作るところから生まれるのだ」、と。そう思います。

とにかく優秀な人たちに、「抜群にセンスのいい問題を思いつくやつらが集まるチームで、一緒にそれを解きながら世の中にインパクトを与えていく興奮を、ぜひ味わいませんか!」と伝えたいですね。まさに、これからです。僕たちのチームが、ミディアム経済学や、まだ見ぬ問題を解き尽くす前に、ぜひ今、アクションを起こして欲しいと思います!

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